香川での出会い

　四国旅行に出かけた時のこと。香川でうどんを巡る一日があった。スーツケースの他にも大きな荷物を持っており、両手はふさがり歩くのも一苦労だった。そして、その日はあいにく小雨が降ったりやんだりしていた。

　川沿いの道をてくてく歩いていると、後ろから来たプリウスに乗っていたおばちゃんが「乗っていきますか？」と。まさかこんな見ず知らずの人に声を掛けてくれる人がいると思っていなかったので、とてもありがたかった。普段から歩くのは苦じゃないし、と思って軽く考えたのが良くなかった。おばちゃんは私の荷物がかなり多いのを見て大変だと思ったらしい。

　おばちゃんはかなり気さくな方で、「あそこのうどん屋さんもおいしいですよ」と、当初行く予定のなかったうどん屋さんまで車で送ってくれた（そこから駅まではかなり近かったので帰りは歩いて帰ることができた）。

　昨今は知らない人に声を掛けられても気を付けた方がいいと言われる物騒な世の中。それは否定しないし正しいと思う。自分の身は自分で守らねば。しかし、私はこのような場面で逆の立場に遭遇したら、このおばちゃんのように声を掛けられる人になりたいなと思った。声を掛けた方も掛けられた方も、出会う前より少し幸せになる。もうこのおばちゃんと出会うことはほぼないだろう。このおばちゃんからもらった幸せは、私から違う人へつなげていきたい。そうやって小さな幸せのリレーがつながれば、世の中は今よりも少しずつ、本当に少しずつだけれども幸せが増えていくのではないだろうか。

　いま私の胸の中に、香川でのこの出会いはほっこりと心の温まる想い出としてしまわれている。