ニューヨークでの落とし物
数年前、一人でニューヨークを訪れた。初めてのニューヨーク。大都会に緊張しながらも、滞在中の楽しみに心躍る気持ちであった。
しかし、その気持ちも一転。空港からニューヨークの街中へ移動するバスの中で、携帯電話を落としてしまったらしい。手荷物をいくら探しても見つからない。確かにバス内でその携帯電話を出して使っていた。そのままバス内に置き忘れてしまったのだろうか。頭の中を悪い想像がぐるぐると駆け巡る。
ここはニューヨーク。これは日本でも手元に戻ってくるか怪しい話だ。ましてやニューヨーク。誰かが発見して悪用するのではないか。いや、そうでなくてもバス会社で落とし物がきちんと管理されているかも不安だ。たとえ万が一に見つかったとしても、この短い滞在期間(確か3泊4日程度だった)で受け取ることは可能なのだろうか……。
幸いにも、私の手元には電話ができる携帯電話がもう一つあった。ひとまずバス会社のLost & Found(落とし物)担当へ電話を掛けるしかない。電話を掛けると、はじめに音声案内があったのだが、そこですでに何を言っているのか分からない。私は自分の英語力に落胆したが、何度も何度も掛け直した。番号を間違え違う担当に繋がりながらも、最終的にそれらしいところへ繋ぐことができるようになった。
しかしやっと繋がったものの、どうやらそこには私の携帯電話のような外見のものは届いていないらしい。やはりダメか……。私はバス内での自分の不注意を悔いた。しかし、まだ届いていないだけかもしれない。もしくは私の発音が悪く、正しく伝わっていないだけなのかもしれない。そして、それから1日に何度もバス会社へ電話し続けた。
ニューヨークを発つ前日、またダメかと半ば諦めつつ電話すると、なんと私の携帯電話があるというではないか。翌日のバス乗り場で引き渡してくれることとなった。それから場所・時間を約束し、無事に受け取ることができた。その時の安堵感、達成感は何とも言い難かった。全ては自分の不注意から始まったことであり、実際は本当に受け取ることができるか、受け取る瞬間まで本当にドキドキだったのだが……。
今回はただただ運がよかったのかもしれない。しかし、諦めないことの大切さを身をもって感じた。そして人を信じること、人々が行き交うニューヨークにおいても、人と人の繋がりは捨てたものじゃないと強く思ったのだった。